万一に備えるための〜保険の相続対策
万一に備えるための〜保険の相続対策
文書作成日:2024/05/05
遺留分対策のための生命保険

遺留分対策として、生命保険の追加加入は効果があるのでしょうか?

Q
今月のご相談

 私は会社を経営していましたが、昨年75歳で区切りをつけ代表取締役を長男に譲り退任しました。同時に私の相続について検討しました。想定される相続人と資産内容、相続財産の配分は下記のとおりです。

【想定される相続人】
  • 妻(同じ会社の取締役)
  • 子2人(長男:会社を承継、長女:結婚後、遠方に居住、会社とは無関係)
【資産内容】
総額 25,500万円
(内訳)
  • 預貯金:6,000万円
  • 不動産:会社に賃貸している土地建物 11,000万円
    自宅 土地建物 4,000万円
  • 自社株:3,000万円
  • 生命保険:死亡保険金 1,500万円
【相続財産の配分】
  • 長男
    会社を継いでくれた長男にすべての財産を相続させたいと思い、その意思を反映させた公正証書遺言を作成しました。
    妻は遺言の内容に賛同してくれています。
    遺言作成時にサポートしてもらった弁護士から遺留分およびその割合について説明され、長女から遺留分の請求があったときには、応じる必要があることは理解しています。
  • 長女
    長女には長年にわたって現金贈与や孫の学費を支援するなど、十分与えてきた経緯があります。そのため、相続では長女に財産を配分するつもりはありません。

  • 妻も十分な資産を保有しているため、妻への配分は考えていません。

 このように考えていたところ、先日、付き合いのある生命保険会社の担当者から、遺留分への対策に生命保険が有効ということで、一時払終身保険(一時払保険料3,000万円、死亡保険金3,360万円)の提案がありました。納税資金等のために、死亡保険金受取人を長男に指定した生命保険はすでに加入済みです。さらに追加加入する効果はあるのでしょうか?

【契約内容】
  • 保険種類:終身保険
  • 契約者(保険料負担者):私
  • 被保険者:私
  • 死亡保険金受取人:長男
A-1
ワンポイントアドバイス

 死亡保険金は原則、遺留分算定の対象外とされているため、今回新たに生命保険に加入することで遺留分算定の基礎となる財産総額が減少し、ご長女様が請求できる遺留分が少なくなります。その結果、ご長男様へ確実に渡せる財産が増えることになります。

A-2
詳細解説
1.遺留分とは

 遺留分とは、被相続人の財産に対し一定範囲の相続人(兄弟姉妹を除く)が、最低限取得できる権利として保障されている分です。遺留分を侵害する遺言の場合、遺留分の権利を主張されたときには応じる必要があります。

2.遺留分対策として生命保険の新規加入は有効なのか

 遺留分の対策として、生命保険に新たに加入することが有効かどうかについて説明します。

 死亡保険金は受取人固有の財産であり、原則、遺留分算定の対象外とされています。そのため、現預金を一時払終身保険の保険料に充当することで現預金が減り、遺留分算定の基礎となる財産総額が減少します。

 その結果、ご長女様が請求できる遺留分が少なくなります。また、死亡保険金は受取人となるご長男様の固有財産と扱われますので、ご長男様に確実に渡せる財産となります。

(※)相続税の計算においては、みなし相続財産として相続税の対象になります。

3.具体的な効果の試算

 ご相談者様の資産内容で具体的に効果を試算すると、次のとおり、ご長女様の遺留分が減ります。

(※)遺留分の割合は、相続人の構成により異なります。

遺留分算定基礎となる対象財産総額(A) 遺留分総額(B)=(A)×1/2 ご長女様の遺留分((B)×1/2)÷子の数
現状 24,000万円 12,000万円 3,000万円
生命保険追加後 21,000万円 10,500万円 2,625万円

 上記試算は、ご相談者様の資産内容のみで算定していますが、実際に遺留分を算定するときには一定の生前贈与分が含まれます。

 そのため、詳細な遺留分算定の際には、ご長女様への生前贈与のうち遺留分の計算に入れる可能性があるものを検討する必要も出てくるでしょう。

4.生命保険に追加加入する際の注意点

 死亡保険金が遺留分算定の対象とならないのは原則に基づく考えであり、他の相続人との間に著しく不公平が生じるケースと認められると、原則とは異なり、死亡保険金が遺留分算定の基礎に加算される結果となった過去の最高裁判例もあります。

 ご長女様にこれまで渡してきた総額によって、不公平と考えられる可能性もありますので、確実に期待できる効果と断言できるものではありません。

 また、今後の生活設計や不測の事態によっては、まとまった流動資金が必要になることもあります。新たに契約した生命保険を解約すると、返戻金が払い込んだ保険料を下回る場合もありますのでご注意ください。個別事情をふまえて、注意点を確認した上で検討されることをお勧めします。

 相続対策で悩まれた場合には、当事務所までお気軽にご相談ください。

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